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東京高等裁判所 昭和62年(ネ)2206号 判決

控訴人 栗田幸利

右訴訟代理人弁護士 宇田川濱江

同 宇田川忠彦

同 西村昭

同 小部正治

被控訴人 高橋三紀子

右訴訟代理人弁護士 船尾徹

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、被控訴人から金二五〇〇万円の支払いを受けるのと引換えに、原判決添付別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。

2  控訴人は、被控訴人に対し、昭和五九年九月一五日から右明渡済みに至るまで一か月金八万円の割合による金員を支払え。

3  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一・第二審を通じてこれを三分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。(被控訴人の第一次請求の訴えの取下に同意する。)

二  控訴の趣旨に対する答弁

控訴棄却

(第一次請求の訴えを取り下げる。)

第二次請求の趣旨のうち、「一〇〇万円」とあるのを「一〇〇万円または裁判所が相当と認める任意の金額」と改める。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被控訴人の父天池弥三治は、昭和三九年七月一日控訴人にその所有にかかる原判決添付別紙目録記載の建物(以下本件建物という。)を、期間一〇年間、賃料一か月金五万円の約定で賃貸した。

2  弥三治は、昭和五〇年一一月五日死亡し、同人の妻天池きくが遺産相続したが、同人も昭和五二年一二月一〇日死亡したので、被控訴人が更に遺産相続し、本件建物の賃貸人たる地位を承継した。

3  本件賃貸借契約の賃料は、順次改訂され、昭和五七年三月からは一か月金八万日となった。

4  被控訴人は、昭和六〇年六月一七日の原審第三回口頭弁論期日において、控訴人に対し、次の5(一)ないし(三)記載の正当事由があること及び立退料の提供を補強条件とすることを理由として本件賃貸借契約の解約を申し入れているものであるところ、右立退料として金一〇〇万円又は裁判所が相当と認める任意の金額を支払う用意があり、右立退料の提供と右正当事由を総合すれば、右解約申入れには正当事由があるということができる。

5  正当事由は次のとおりである。

(一) 本件建物は、建築されてから三〇数年経過してかなり老朽化しており早急に建て換える必要がある。すなわち、本件建物の基礎・土台は北側に腐蝕が随所にみられ、屋根は瓦葺部分に欠落があり全体に浮きが認められ、外壁は押縁の欠落、板の破損が随所にみられ、庇・軒下は随所に腐蝕、損壊がみられる状態であり、又、本件建物内においても、床の各部に浮沈がみられ、柱の損耗度は経過年数に比例して傾斜の度合は二度~三度になっており、建具についても全般的に損耗度は高いものとなっている。右の腐蝕・損壊・欠落を補修するということは、それ自体本件建物全般しかも根幹部分にかかわる大工事を要するものであり、これに要する工事費用は極めて多額になることが予想され、むしろ建替の時期がきているというべきである。そして、本件建物の敷地は、被控訴人が訴外放生寺から賃借しているもので、このままでは近い将来本件建物が朽廃し、被控訴人は、敷地の借地権を失ってしまう。又、本件建物は、近隣が中低層堅固建物ないしは高層マンションへ移行しているなかで、近隣環境との適合性に欠けているので、この点からも本件建物は建て替える必要がある。

(二) 被控訴人は、本件建物を取り壊し、新たに三階建ての建物を建築し、早稲田大学に近接している本件建物の立地条件を活かすために、書店、ワープロ利用室及び学生を対象とした会議室を開設し、また、被控訴人本人がワープロを学習してワープロ教室を開く計画を持っている。

(三) 控訴人は、本件建物を二〇年間にわたって賃借し、現在では肩書地において約五〇坪の土地を所有し、同土地上に二棟の建物を所有してそのうちの一棟に居住し、他の一棟は第三者に賃貸しているほか、妻栗田りい名義で新宿区原町二丁目にも土地建物を所有し、これを第三者に賃貸して多額の賃料収入を得るまでになっているものであって、賃借人としての契約の目的は充分達成している。そして、控訴人は、本件建物における食堂経営のほかに、大阪にある株式会社ケイ・ツーの役員に就いており、控訴人夫婦の生活状態は、賃料収入と合わせて極めて余裕のあるものである。

よって、被控訴人は、控訴人に対し、解約による賃貸借の終了に基づき、被控訴人が立退料金一〇〇万円ないし裁判所が相当と認める任意の金員を支払うのと引換えに本件建物の明渡を求めるとともに昭和五九年九月一五日から右賃貸借終了の日である昭和六〇年一二月一六日までは賃料として、同月一七日から右明渡ずみまでは賃料相当損害金として、一か月金八万円の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし4の事実は認める。

2(一)  同5の(一)の事実のうち、本件建物が建築後三〇年経過していること及び本件建物の敷地は被控訴人が訴外放生寺から賃借していることは認め、その余の事実は否認する。

本件建物は、基礎及び土台、小屋組等、建物の基本的部分で補修困難な部分においては特に腐朽は見られない。本件建物は、相応の手入れを行った場合には一〇年ないし一五年以上は使用に耐え得るものであって、控訴人は、現に何らの不安も危険も感ぜずに営業を続けている。現時点で補修しておけば、より安全であると思われる部分につき補修を行うとしても、その費用は無理なく負担できる金額である。それに、本件建物は、被控訴人所有の鉄筋コンクリート造平屋建倉庫・車庫の上に建っているので、仮に本件建物が朽廃したとしても被控訴人の借地権が消滅するおそれは全くない。又、本件建物は、放生寺表入口参道に面している他、その付近は中高層建物などないという場所である。しかも放生寺裏手には穴八幡宮の本殿、社務所があり、早稲田交差点から穴八幡宮に至る参道は相当長く、緑に覆われている。本件建物は、その周囲付近の全体からみれば近隣環境に適合しているといえる。

(二) 同5の(二)の事実は知らない。

被控訴人は、その資産ないし経済状態からみて、現在直ちに本件建物を改築し、書店等を開かなければならない程の急迫した事情は見当たらない。しかも、被控訴人は、夫が一流企業に勤務するサラリーマン家庭の主婦であって、これまでに書店やワープロ教室の経営は勿論、そのような店に勤めた経験もない。かかる被控訴人が今新しく事業を始める必要は存在しない。又、被控訴人は、豊島区南大塚一丁目に宅地一三〇坪と建物を所有し、これを第三者に賃貸しているものであるが、この宅地は、国電大塚駅から徒歩一五分の所に位置し、商店街でもあるから、ワープロ関係の事業に適している。

(三) 同5の(三)の事実のうち、控訴人が被控訴人主張のとおりの不動産を所有し、その一部を第三者に賃貸していること、控訴人が株式会社ケイ・ツーの役員になっていることは認めるが、その余の事実は否認する。

賃貸建物による収入は、諸経費を控除すれば、年間約一三三万円にしかならない。控訴人は株式会社ケイ・ツーの役員になってはいるが、これは娘夫婦の依頼による名義のみの役員であって、なんらの報酬も得ていない。

三  控訴人の正当事由に関する主張

1  控訴人は、本件建物において二〇年間にわたって、「まんぷく食堂」なる屋号で飲食店を経営し、多くの常連客を獲得しており、右食堂経営は生活を維持する上で欠かせないものである。控訴人が本件建物における食堂経営以外にも収入を得ていることは事実であるが、その収入は僅かで、それのみで生活することはやがて夫婦で老年を迎えなければならない控訴人にとって非常に不安である。又、食堂経営が生活の基盤となっているのは控訴人丈ではなく、従業員にとっても、本件店舗の存廃は死活問題である。何よりも控訴人は、長年心血を注いできた店に対する愛着が非常に強いし、本件建物の周辺に代替店舗を確保することも極めて困難である。

2  控訴人は、弥三治に対し、昭和三九年に本件建物を借り受けるにあたり、権利金として金三五〇万円を支払うこととし、金一二二万二〇〇〇円を現金で支払い、残金については、浦和市内の畑一三四坪をその支払いに当てた。右金額は、当時本件建物の家賃が金五万円であったことからすれば、その七〇倍の額であり、同じ時期の本件建物と比較的類似した建物の取引例と比較しても高額である。しかも、賃借と同時に一〇年後の更新料の支払約束を要求され、これに基づき控訴人は、昭和四九年一〇月、弥三治に金一七五万円を支払った。これに対し、被控訴人側では、借地権取得に際し、放生寺に対して特別に対価を払ったこともなく、昭和五一年の更新時期においても、放生寺からの更新料の支払要求を拒絶したまま現在に至っており、賃料も一方的に低額なものを支払い続けている。右のような投下資本の程度の比較に照らせば、控訴人は、実質的にみるならば、被控訴人の有する借地権の相当部分を買い受けたに等しい。又、控訴人が弥三治から引渡しを受けた本件店舗の什器備品は少なく、実際に使用できたのはテーブルと椅子だけであった。

3  本件建物の敷地の所有者である放生寺は、被控訴人の改築構想の申出を、本件建物の敷地が低地である放生寺参道等に接するので高層建物は寺院の尊厳の維持を著しく害するとして拒絶しており、その理由に照らせば、賃貸借条件の変更の可能性は、殆どあり得ない。

四  控訴人の正当事由に関する主張に対する認否

1  控訴人の主張1の事実のうち、控訴人が本件建物において二〇年間飲食店を経営していることは認め、その余の事実は否認する。

仕出しを中心とする現在の控訴人の営業状態では特に本件建物でなくとも営業を遂行することが可能である。控訴人にとって、もし店舗が必要であるなら、その所有の建物を改造するか、他に不動産を求めることが可能である。

2  同2の事実のうち、控訴人が弥三治に対し、本件賃貸借契約時に権利金として金三五〇万円を支払うこととし、金一二二万二〇〇〇円を現金で支払い、残金については、浦和市内の畑一三四坪をその支払に当てたこと及び昭和四九年一〇月更新料として金一七五万円を支払ったことは認め、その余の事実は否認する。

弥三治が本件建物の敷地の賃借権を取得するにあたっては、その私財をさいて放生寺の庫裏裏手に放生寺のアパートを建築して右寺の維持をはかり、放生寺の本堂建築にあたっての資金を捻出するなどしたものである。昭和三九年には、金二〇〇万円を放生寺に支払っている。又、同年の本件建物の増築には合計金三二六万九七〇〇円かかっており、本件建物の新築費用ももとより相当額かかっている。なお、更新料支払の際、弥三治は、控訴人に対し、什器備品(時価九一万円相当)を提供した。

3  同3の事実のうち、本件建物の敷地の所有者である放生寺が、被控訴人の改築構想の申出を、本件建物の敷地が低地である放生寺参道等に接するので高層建物は寺院の尊厳の維持を著しく害するとして拒絶していることは認め、その余の事実は否認する。被控訴人は、放生寺に対し、借地非訟事件手続によって賃貸条件変更を求めるつもりである。

第三証拠関係《省略》

理由

請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。そこで、以下に正当事由の有無について判断する。

《証拠省略》を総合すると、次の1ないし8の事実が認められる。

1  本件建物は、同一町内の近隣にある放生寺の入口参道に面して存在する。その敷地は同寺の所有であり、被控訴人の父弥三治は、同寺先代住職の妻が弥三治の妹であるところから、昭和三一年一月同寺から右敷地を賃借し、その地上に本件建物(ただし、後記増改築以前のもの)を建て、弥三治の独身の姉にここで軽食と喫茶の店を開かせたが、営業成績も思わしくなかったので、昭和三九年七月調理師の経験を持ち、食堂経営の希望を有する控訴人にこれを賃貸することとし、同年中弥三治の出捐した費用により、右敷地の地下部分をくり抜いてコンクリート造りの車庫を設け、その上部に従前存した建物を乗せて増改築し、現況の本件建物とした上、これを控訴人に賃貸した。控訴人は、本件建物賃借時に弥三治に権利金として三五〇万円を支払うこととし、金一二二万二〇〇〇円を現金で支払い、残金については浦和市内の畑一三四坪をその支払に当てた。又、昭和四九年に更新料として金一七五万円を支払った。右権利金及び更新料は、当時としては高額であったが、弥三治は本件賃貸借契約締結に際して合計金三〇〇万円余をかけて本件建物を増改築し、更新料支払の際、被告に対し、什器備品等金九一万円相当を提供した(右権利金支払関係については当事者間に争いがない。)。

2  ところで、本件建物の大部分は、すでに築後三〇数年を経過し、基礎や土台、特にその北側部分には随所に腐蝕が見られ、屋根全体にも浮きが見られ、セメント庇には欠落したままの部分があり、外壁は下見板張りで一部分欠落・破損があり、庇、軒下には随所に腐蝕や損壊がみられる状態になっている。本件建物の保守・管理状況は良好ではなく、外壁、土台部分などはほとんど手入れもされておらず、昭和六〇年一一月の時点では建替の時期に至っており、このまま推移すれば、近い将来朽廃するおそれがある(本件建物が建築後三〇年を経過していることは当事者間に争いがない。)。《証拠判断省略》

3  本件建物は、道路を隔てて早稲田大学文学部校舎に隣接し、他学部の校舎にも近く、学生街の真ん中に位置し、周辺地域は、従来の建物が建て替えられて中高層化しており、本件建物に隣接する建物も近時三階建の堅固建物に建て替えられている。

4  被控訴人は、近時ワープロ普及に伴い、これを習得しようとする学生も増大する傾向にあるところから、前記3の立地条件を活かして、本件建物を取り壊して三階建の建物を建築し、書店、ワープロ利用室及び学生を対象とした会議室を開設することを計画し、既に設計図面を設計事務所に作成させ、将来ワープロ教室を開くために本人がワープロを学習し、より高い経営効率を有する事業に着手しようとしており、敷地の地主である放生寺に対し建替えの承諾を得るべく交渉を重ねている。

5  控訴人(大正七年三月一五日生)は、本件建物において二〇年以上にわたって「まんぷく食堂」なる屋号で食堂を経営し、妻と従業員高橋一夫婦のほかアルバイトの女性一・二名とで営業し、早稲田大学の教職員や近隣の寺の法事の際の弁当の仕出と店に来る客を対象としているが、常連の客が多く、仕出弁当の得意先も本件建物周辺に固定しており、昭和六〇年度及び同六一年度の青色申告によれば、年間の総売上は前者が金二九四八万円余、後者が金二九四一万円余、課税される所得金額は前者が金一三三万円余、後者が金二七八万円余、控訴人夫婦の給与は前者が金九三九万円余、後者が金八七四万円余である。しかして、本件建物周辺に代替店舗を確保するためには相当額の権利金及び本件建物におけるよりかなり高額の賃料を支払うことになるものと予想されるので、代替店舗による営業の継続にはかなり困難が伴うものと考えられる。そして、控訴人は、長年にわたり本件建物での食堂経営を生活の基盤としてきたので、店に対する愛着も極めて強い(控訴人が二〇年以上まんぷく食堂を経営していることについては当事者間に争いがない。)。

6  被控訴人は、肩書住所地の借地上に建物を所有し、これに会社員の夫と二人で居住し(子供はいない。)、生活に不自由はない。因みに、被控訴人は、その所有の豊島区南大塚一丁目一六〇二番二〇宅地(四二九・八一平方メートル)、同番の二六宅地(二一・〇九平方メートル)、同番の三五宅地(三〇・三八平方メートル)及び同番二〇所在の建物を昭和六二年七月三一日他に売却処分した。

7  控訴人は、肩書住所地の土地(一六七・八三平方メートル)を妻と共有し、同地上に建物二棟を所有し、一棟をアパートとして賃貸し、他の一棟に妻と居住している(子女はすべて独立し又は他に嫁いでいる。)。又、妻名義で新宿区原町二丁目の土地三筆(妻単独所有のもの六九・九七平方メートル、妻と萩野幸雄共有名義のもの三三・〇五平方メートル及び一三・八三平方メートル)と、同地上の建物二棟があり、一棟はアパートとして賃貸し、もう一棟は従業員の前記高橋夫婦に無償で貸与している。そして、これらの土地建物は、いずれもこれにまんぷく食堂を移転させて継続することは、立地条件等に照らして困難である。なお、前記アパート経営による控訴人の賃料収入は毎月三〇万円程度である(控訴人及びその妻の土地・建物の所有関係、賃貸関係については、当事者間に争いがない。)。

8  なお、本件建物の敷地については、放生寺は、被控訴人からの改築構想の申出を、本件建物の敷地が低地である放生寺参道等に接するので高層建物は寺院の尊厳の維持を著しく害するとして拒絶しており、これに対し、被控訴人は、放生寺に対し借地非訟事件手続によって賃貸条件変更を求める予定である。

以上のとおり認めることができ(る。)《証拠判断省略》

以上の認定事実によれば、本件建物は今日まで専ら食堂として使用され、他方被控訴人も本件建物をワープロ教室等として使用しようとするものであって、いずれも居住の用に供するためのものではなく、控訴人において本件建物での食堂経営ができなくなるときは当面ある程度の営業上の利益を受け得なくなることは必至であるにしても、生活それ自体が困窮するに至るほどの影響を受けるとまではいい切れず、又、前記建物老朽化の程度に照らせば、今後の営業可能見込年数もさほど長期にわたるものとは思料されず、他方被控訴人においても、本件建物でのワープロ教室等の営業が開始できないときは、そのために生活がおびやかされるといった喫緊の状態にあるわけのものでもなく、要するに、双方いずれにとっても、その必要性は経済生活上唯一必至のものとはいいがたい。そして、右両者を対比すれば、その程度は、現にこれを使用している控訴人の方が明渡による影響を直ちにうけることになる点において、被控訴人のそれよりもより強いといわなければならないから、被控訴人側には未だ十分な正当事由があるとはいいがたい。しかし、その必要性の程度の差も、衡平の観念に照らし、控訴人が使用できなくなることに対する相応な金銭的補償をもって調整し得る範囲内のものというべきであるから、正当事由の補完として、相当額の立退料を提供するときは、解約の申入れによる明渡を認めて差支えないものとするのが相当である。

被控訴人が昭和六〇年六月一七日金一〇〇万円ないしは裁判所の相当と認める任意の金員を提供することを条件に解約の申入れをしたことについては前記のとおり当事者間に争いがない(なお、原判決は立退料を金五〇〇万円と定めてそれと引換えに本件建物の明渡を命じたところ、被控訴人は右原判決に対し控訴も附帯控訴もしていないことは本件記録上明らかである。)。

しかして、立退料については、前示の事情、殊に、本件建物の必要性は当事者双方にとり営業場所の確保、すなわち営業による経済的利益の得喪を核心としていること、控訴人の今後の営業可能見込年数もさほど長期にわたるものでないこと、控訴人のこれまでの営業実績(営業利益)、代替建物獲得の困難性、双方の必要性の程度を総合して金二五〇〇万円と定めるのを相当とする。

してみると、被控訴人のした前記解約申入れは、その後六か月を経過した昭和六〇年一二月一七日をもってその効果を生じ、同日限り本件賃貸借は終了したというべきであるから、控訴人は被控訴人に対し、同日以降金二五〇〇万円を支払うのと引換えに本件建物を明け渡す義務があるといわなければならない。

以上により、被控訴人の請求は、立退料として金二五〇〇万円の支払と引換えに本件建物の明渡を求め、かつ、昭和五九年九月一五日から右賃貸借終了の日である昭和六〇年一二月一七日までは賃料として、同月一八日から右明渡ずみまでは賃料相当損害金として、一か月金八万円の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。

よって、理由と結論において一部異なる原判決は右の限度で変更するものとして主文のとおり判決する(なお、被控訴人の第一次請求は、当審における訴えの取下により終了した。)。

訴訟費用の負担につき、民訴法九六条八九条適用

(裁判長裁判官 武藤春光 裁判官 菅本宣太郎 秋山賢三)

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